自分の父親の通夜なんて想像もしたことがなかった

ちょっとは眠ったので普通に目が冴えていた。
こういう時って特殊な状態なんだろうな。
眠っていなくてもつらくない。


朝、まだ誰も来る前に母と二人でまたちょっと泣いた。
ウチの家族はみんな父を愛していたし、父から愛されていたと思う。


不安や寂しさで泣いているんじゃなくて、
みんな父の優しさ、偉大さに感謝して泣いている。


こんな家族の形も、父が遺していってくれた物の一つだと思う。


夜にちょっと泣いて、もう父親の身体との別れは怖くなくなった。
とても悲しいけれど、父は姉貴と俺を大人になるまでちゃんと育ててくれた。
姉貴は娘も産んだし、俺は言葉ではなく言動で、父の強さと優しさを教えてもらった。
これからはずっと父が傍にいてくれるし、俺は大事な物をちゃんと受け継いだと思ってる。
父の身体は消えてしまっても、父は俺の中で、みんなの中でちゃんと生きていると確信できたから。
俺はもう、父の身体が滅んでしまう事を恐れない。


今日も姉夫婦が朝から来きた。
棺に入れる写真なんて話があったので昔の写真を見る。
若い頃の父や母、幼い頃の姉貴と自分。
お父さん、この頃は何を思って過ごしていたんだろう?
もうそろそろ、写真の中の父の歳と同じくらいの自分がここに居る。


父だけ先に斎場に向かう予定になっていて、そろそろ時間というギリギリの時に
北海道から伯父さん伯母さん達が来た。


伯母さんは
「みっちゃん、起きなさい。」
なんて言いながら泣いている。


父は5人兄弟の下から二番目の次男だった。
おじさん達だって、ばあちゃんが生きてるのに、ウチの父親が先に突然逝くなんて
考えても居なかったはず………。


伯父さんは父に似ているので、こんな時に見ると
まるでウチの父親が居るかのような気がしてしまう………。


そんな感じで、おじさん達があわただしく焼香を済ませると、父は先に斎場に連れて行かれた。


それで、俺も出る準備をした。
突然だったし何も準備できていなかったから、喪服は全部父の物だった。
一応着てみて、ちょっと鏡でチェックする。
朝、写真の中で見た父の姿と瓜二つの顔がそこにはあった。
間違いなく親子だ。


下に降りていくと、何も言ってないのに伯母さんから
「みっちゃんだ!!」
と言われた。
若い頃の父を知る人から見れば、明らかに今の俺の姿は父の姿に重なるのだろう。
自分が見ても、伯母さんが見ても、やっぱりよく似ているのだ。
俺はそれを嬉しく思う。


バタバタとしていて、忘れ物したりしながら斎場に行く。
自分の父親の通夜なんて想像もしたことがなかった。
随分と沢山の人が来てくれた。
俺の知らない人が大半だけど。
俺の会社の人や友達も沢山来てくれた。
高校の先輩で、その先輩の親が亡くなった時は俺は行けなかったのに来てくれた先輩とか、
多分2000年代に入ってから一回会ったか会わなかったかってくらい会ってない友達とか、
そんな人もみんな来てくれた。


ウチの父親もこれを見て、きっと安心してくれたと思う。
俺は最近会えてなくても、こんなに沢山の大事な仲間が居てくれている。


そんなこんなで御通夜も何事もなく終わった。
北海道の親戚は斎場で仮眠用の布団を使って泊まる。
母方の親戚はみんな近くなので帰った。


夜、俺が線香を絶やさないようにと思って行くと、1時だったか2時だったかくらいから
何故か知らない人が斎場の椅子に座って寝ていた。
てっきり斎場の夜勤か何かの人なのだと思ったのだけど、
翌朝聞いたら「ウチの人間はそんな所では寝ません。」との事で……。
謎の人物だったようだ。
とりあえず何も盗られていなかったようなのでまあいいけど……。
俺は自分の父親だからいいけど、よく他人の遺体の近くで寝れるもんだなとは思った。